オーディオミキサを試作した

1. 背景

こんにちは、PICMANです。

今回、とある事情から複数機器のオーディオ出力を一つにまとめてイヤホンで聞きたいということになったのでアナログのオーディオミキサを自作してみました。

最初はYAMAHAあたりのミキサを買おうかと思っていたのですが、そもそもステレオミニプラグの入力端子が少なく、マイク用のファンタム電源端子とかは不要なのでやめました。一台あるといろいろできて面白そうですが…

結局、GWで時間もあることですし自作してみることにしました。今回のオーディオミキサに係る要件は以下のとおりです。

  • 3入力1出力
  • 端子形状:3.5mmのオーディオミニプラグ
  • 各入力の音量調節機能

書き出してみるとこれしかないので、オペアンプ一つでササっとできそうです。

2. オペアンプ一つで作るミキサの原理

オーディオミキサの基本的な原理としては、アナログの信号を加算するだけなので、オペアンプの加算回路があれば事足ります。タイトルに「オペアンプ一つで作る」なんて書きましたが、特に部品点数を工夫して減らしたというわけではありません。fig.1にオペアンプを用いた加算回路を示します。

Fig.1 オペアンプを用いた加算回路

Fig.1では3入力の加算回路を例として書きました。反転増幅回路を構成したオペアンプの反転入力端子を並列に増やすことで、それぞれの信号を加算した出力を得ることができます。オペアンプの基本的な使い方の一つであるため、詳細は本なりググるなりでたくさん出てくるかと思います。

注意点としては、この回路は反転増幅回路であるため、出力信号の位相が逆転しています。簡単に説明すると、0[V]中心として各入力からそれぞれ1[V]の信号が入力されたとき、単純な加算結果は3[V]になりますが、本回路での出力は-3[V]になります。つまり中心の基準電圧から反転した出力となります。今回のような、オーディオ音源をイヤホンで聞くことを想定する場合は特に問題はありません。問題となるのは、同一ソースの信号を複数の機器で増幅・再生するような場合です。このような反転増幅のアンプと非反転増幅のアンプが含まれると最終的にスピーカーから出力される信号が打ち消し合い減衰することが考えられます。この問題を解消するためには、反転増幅の後にもう一段反転増幅回路を配置して位相をもとに戻します。今回の試作回路では部品点数削減のためFig.1のままとします。

3. 試作した回路

3.1. 回路図

次に、Fig.1に示した加算回路をベースに、今回の試作したオーディオ信号を加算する回路をFig.2に示します。

Fig.2 オーディオミキサ回路(片チャンネル)

Fig.2に示したのは片チャンネル分になります。つまり実際に回路を作る際にはステレオにするためこの回路を2つ作ります。

3.2. 試作回路の特徴

Fig.2に示した回路は左側の「AudioIn」が入力部分で右側の「MixedAudioOut」が出力となっています。各入力信号はそれぞれ独立して音量調節するため、はじめに「VR_A50k」と書かれた可変抵抗により分圧されます。これは50[kΩ]のAカーブの可変抵抗です。その後DC成分をカットするため10[μF]のコンデンサを挟んでいます。その後、抵抗をはさみ、加算回路構成となってオペアンプに入力されます。

Fig.2に示した回路はオペアンプを単電源(正電源のみ)で動作させています。理由として、負電源の用意とそれに伴う電源ノイズ除去に苦労しそうだと思ったからです。というわけで、今回オペアンプの非反転入力端子に電源電圧の半分の電圧をバイアスをして印加しています。

このようにバイアスをかけると出力にもバイアス分のDC成分が乗ります。そこで出力手前のCRのハイパスフィルタ(HPF)でDC成分をカットしています。ここにはCとして100[μF]、Rには150[kΩ]を使用していますのでカットオフ周波数は約0.01[Hz]となります。もう少しRの値を小さくしても良かったかもしれません。設計当初ではこのHPFのカットオフ周波数を15[Hz]くらいにしていたのですが、ドラムやベースなどの低音域がゴッソリ抜け落ちてたのでかなり下げました。また今回のような単電源でバイアスをかける方式ではHPFのコンデンサは大きいほうが良いみたいです。

また、今回は増幅が目的でないので帰還部と入力部の抵抗は同じ10[kΩ]とし、利得は1(正確には-1)となっています。一方で、Master volumeと書かれている可変抵抗により、利得を少し下げることができるようにしています。これは全体の音量調節目的で設置しています。

最後に、この回路の要となるオペアンプは新日本無線のNJM4580DDを使用しています。選定理由としては、オーディオ系の回路に詳しい友人に選んでもらった、ということになります。オペアンプ以外にも回路について色々アドバイスを貰ったので非常に助かりました。ありがとうございます。

閑話休題

NJM4580DDはもとよりオーディオ用のオペアンプとして設計されています。また動作電圧が±2~±18[V]となっており、最低でも電圧差が4[V]あれば動作してくれるため、USB電源などで駆動にはちょうど良いオペアンプです(電源問題については後述する)。このオペアンプはDIP-8のよくある2回路入りのものなので、これ一つでL、Rの2チャンネルでミキサ回路を作ることができます。

3.3. 試作回路の問題点

Fig.2に示した回路での問題点は大きく2つあります。一つは電源回路を一切考慮していないこと、もう一つはマスターボリュームが0-100[%]で調節できていないこと、になります。

3.3.1. 電源回路について

今回の回路ではとりあえず試作することを目標としたためシンプルな構成となっています。言い換えるとほぼ教科書どおりの回路であり、理論通りに動くことしか考えていません。このような回路では電源の品質などが出力音声に大きく寄与します。よってこの回路ではひとまず電源回路を搭載せず、外部から給電するようにしています。一応オペアンプの電源とグラウンド間には1, 10[μF]のコンデンサを挟んでいますが気休め程度です。もう二桁くらい増やしてもいいと思います。

電源の問題に関しては、問題というよりまだ何も考えていなかったので今後よく検討したいと思います。オーディオ用のレギュレータとか1000[μF]のコンデンサを揃える予定です。

3.3.2. マスターボリュームについて

Fig.2の回路図を見てもらうと、Master Volumeと書かれた可変抵抗の1端子が開放(未接続)となっています。当初はこの端子をグラウンドに接続していました。しかし、このオペアンプは電源電圧の半分のバイアスをかけているので、電源電圧/2.0を中心に振れていることになります。つまり本来ならばバイアス分の電圧をこのマスターボリュームの開放している端子に印加する必要があります。これに気がついたのは実装後だったのでとりあえずグラウンドから切断し、開放にしています。よってマスターボリュームが0-100[%]で調節できなくなってしまいました。

修正案としては、出力信号の位相を揃えるついでにもう一個反転増幅のオペアンプを追加して、そちらで全体のボリュームを調節するようにしようかと思います。

4. 実装結果

今回はひとまずユニバーサル基板に実装してみました。部品は全部秋月電子で発注しました。費用的には2000円位かと思います。Fig.3に実装した基板を示します。

Fig.3 実装した基板

実体配線をつくらずてきとうにはんだ付けしていたら、最終的にオペアンプ周辺でジャンプせざるを得なくなってしまいました。残念。また実装後に気がついたのですが入力後のDCのカット用コンデンサの極性が逆でした。よく壊れなかったな……。

Fig.3中の左側3.5mmジャックが出力で、残りの3つは入力になります。また左の赤いボリュームがマスターボリュームで、残りの緑が各入力の個別ボリュームです。

実際にPCやらスマホやらの音声出力を試作基板に接続して使用してみたところ、音声がミキシングされてることが確認できました。(先述のようにマスターボリュームが完全に0まで落ちない問題はありますが)。

電源ノイズを考慮しない音質については、かなり良い感じかと思います。同じイヤホンを使って音源と直結で聞いたときと本ミキサ回路を挟んだ場合であまり違いを感じませんでした。

4.1. 実装結果から得られた問題点

実装し、使ってみてわかった問題点です。

  • 電源ノイズが気になる(再)
  • 電源投入時のポップノイズがうるさい
  • マスターボリュームを操作するとボリュームガリが載る

電源回路については先述のように完全に外部依存となっています。Fig.3中の左側に伸びている赤と黒のジャンパ線から給電するようにしています。今回、電源として色々試してみましたが、最もノイズが乗らなくて良かったのは006P(9[V]乾電池)と12[V]の鉛蓄電池を直結した場合でした。ノイズ源がないので当然ですね。この他にも手元にあった、スイッチング電源9[V](GF18-US0920T)から5[V]出力レギュレータL7805CV-DGを挟んで電源としてみましたが、そこそこ気になるノイズが乗っていました。L7805CV-DGはリプル除去比が68[dB]と割と高めだったので行けるかと思ったのですがダメでした……。冷静に計算してみると、GF18-US0920Tのリプルが~240[mVp-p]とあるので、このレギュレータの出力リプルは約96[μVp-p]になりそこそこ残っている、のかな?ということになります。また音源の再生機器のUSB電源をとって使うことも試してみましたが、やはりこちらもノイズがひどくて使い物になりませんでした。また再生機器と電源を共有してしまうとグラウンドループが形成されてしまい、これもまたノイズ源となるので良くないみたいです。

ポップノイズについては、以前真空管アンプキットを作成したときあった回路を参考に追加しようかと思います。ただ電源投入直後にイヤホンへの出力が切れていればいいだけなのでマイコンを使わずに済ませたいなと考えています。

最後に、マスターボリュームを操作するとボリュームガリが載る問題です。これに関しては現状マスターボリュームが期待通りに動く回路になってないので直す、というより前述のようにまるまる作り変える予定です。そこでガリが乗っていたらまた考えましょう。

5. 今後の予定

一通り作ってみていろいろ問題点がわかったので次回改善した回路とともに、KiCadで基板起こしてみたいと考えています。ただこの新型コロナ騒ぎの中、中国の格安基板製造業者に発注して届くのかは心配ですが……。ひとまず、入力後のDCカットコンデンサの極性は絶対に直したいです。

続き:オーディオミキサを改良してプリント基板を作成した

PIC MAN

ソフトとハードの両方の目線を持てるようになりたいです.

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